滞納処分と差押解除

いろいろ質問があったり浮世の義理があったりで、本来書きたいことがなかなか進みません(謎)

で、地方税の滞納処分による差押えと、その解除の要件について。

地方税法では、税目ごとに、財産差押えの要件や、国税徴収法に規定する滞納処分の例によって行うことが書かれています。

たとえば、市町村税である固定資産税。

第373 固定資産税に係る滞納者が次の各号の一に該当するときは、市町村の徴税吏員は、当該固定資産税に係る地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押えなければならない。
 一 滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る固定資産税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき。
 二 略
2~6 略
7 前各項に定めるものその他固定資産税に係る地方団体の徴収金の滞納処分については、国税徴収法に規定する滞納処分の例による。
8 第一項から第五項まで及び前項の規定による処分は、当該市町村の区域外においても行うことができる。

都道府県税の例としては、自動車税

第167条 自動車税に係る滞納者が次の各号の一に該当するときは、道府県の徴税吏員は、当該自動車税に係る地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押えなければならない。
 一 滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る自動車税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき。
 二 略
2~5 略
6 前各項に定めるものその他自動車税に係る地方団体の徴収金の滞納処分については、国税徴収法に規定する滞納処分の例による。
7 前各項の規定による処分は、当該道府県の区域外においても行うことができる。

その国税徴収法でも、

第47条 次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。
 一 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。
 二 略
2~3 略

「督促状を発した日から十日を経過・・・差し押さえなければならない」
という規定です。

ただ、十日たったら必ず差押えされているか、というと、件数が多いこともあり、すぐには行っていないのが実状でしょう。
望ましい(けれど、できなくても罰せられたり無効になったりはしない)というのは、
「訓示的規定」と呼ばれています。

で、ここからが本題。

国税徴収法
第79条 徴収職員は、次の各号の一に該当するときは、差押を解除しなければならない。
 一 納付、充当、更正の取消その他の理由により差押に係る国税の全額が消滅したとき。
 二 差押財産の価額がその差押に係る滞納処分費及び差押に係る国税に先だつ他の国税地方税その他の債権の合計額をこえる見込がなくなつたとき。
2 徴収職員は、次の各号の一に該当するときは、差押財産の全部又は一部について、その差押を解除することができる。
 一 差押に係る国税の一部の納付、充当、更正の一部の取消、差押財産の値上りその他の理由により、その価額が差押に係る国税及びこれに先だつ他の国税地方税その他の債権の合計額を著しく超過すると認められるに至つたとき。
 二 滞納者が他に差し押えることができる適当な財産を提供した場合において、その財産を差し押えたとき。

第1項は、「差押えを解除しなければならない」規定。
・完納や、元の税の課税取消などにより、滞納でなくなった場合(第1号)
・その差押財産を処分したとしても、収入が見込めなくなった場合(第2号)

第2項は、(税務署や自治体の裁量で)「差押えを解除できる」規定。
・たとえば、17万円の滞納があって10万円の定期預金を2口差し押さえたが、10万円の自主納付があって1口解除しても担保されるような場合(第1号)
当座預金を差し押さえたが、事業に支障が出るので別の定期預金の提供があり、そちらを差し押さえたような場合(第2号)

地方税法にも、差押解除の規定があります。

第15条 地方団体の長は、納税者又は特別徴収義務者が次の各号の一に該当する場合において、その該当する事実に基き、その地方団体の徴収金を一時に納付し、又は納入することができないと認めるときは、その納付し、又は納入することができないと認められる金額を限度として、その者の申請に基き、一年以内の期間を限り、その徴収を猶予することができる。この場合においては、その金額を適宜分割して納付し、又は納入すべき期限を定めることを妨げない。
 一 納税者又は特別徴収義務者がその財産につき、震災、風水害、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかつたとき。
 二 納税者若しくは特別徴収義務者又はこれらの者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したとき。
 三 納税者又は特別徴収義務者がその事業を廃止し、又は休止したとき。
 四 納税者又は特別徴収義務者がその事業につき著しい損失を受けたとき。
 五 前各号の一に該当する事実に類する事実があつたとき。
2~4 略

第15条の2 地方団体の長は、前条の規定により徴収を猶予した期間内は、その猶予に係る地方団体の徴収金について、新たに督促及び滞納処分(交付要求を除く。)をすることができない。
2 地方団体の長は、前条の規定により徴収を猶予した場合において、その猶予に係る地方団体の徴収金につき差し押えた財産があるときは、その猶予を受けた者の申請により、その差押えを解除することができる。
3~4 略

第15条の5 地方団体の長は、滞納者が次の各号の一に該当すると認められる場合(略)において、その者が地方団体の徴収金の納付又は納入について誠実な意思を有すると認められるときは、その納付し、又は納入すべき地方団体の徴収金につき滞納処分による財産の換価を猶予することができる。ただし、その猶予の期間は、一年をこえることができない。
 一 その財産の換価を直ちにすることによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあるとき。
 二 その財産の換価を猶予することが、直ちにその換価をすることに比して、滞納に係る地方団体の徴収金及び最近において納付し、又は納入すべきこととなる他の地方団体の徴収金の徴収上有利であるとき。
2 地方団体の長は、前項の換価の猶予をする場合において、必要があると認めるときは、差押により滞納者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産の差押を猶予し、又は解除することができる。
3 略

第15条の7 地方団体の長は、滞納者につき次の各号の一に該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。
 一 滞納処分をすることができる財産がないとき。
 二 滞納処分をすることによつてその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
 三 その所在及び滞納処分をすることができる財産がともに不明であるとき。
2 略
3 地方団体の長は、第一項第二号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その停止に係る地方団体の徴収金について差し押えた財産があるときは、その差押を解除しなければならない。
4~5 略

徴収猶予、換価猶予は「解除できる」規定、滞納処分の執行停止は「解除しなければならない」規定です。

では、ここまでに述べてきた規定、滞納の解消、無益な差押え、超過差押え、差押え替え、徴収猶予、換価猶予、執行停止以外の場合には、差押えを解除できないか、というと、そうでもありません。

実は、国税徴収法にも、地方税法にも、これらの場合以外には差押えを解除してはならない、という明文の規定はありません。
最初に述べた訓示的規定、「督促状を発してから十日を経過した日までに完納にならない場合には差し押さえなければならない」という規定があるだけなんですね。

だから、「差押えを解除してはならない」という訓示的規定はある、とはいえるかもしれません。
ですが、訓示的規定です。
一般的には差押解除しない方が望ましいが、やむを得ない場合には、その機関の裁量により差押え解除は可能、
と読んでも法の趣旨には反しないと考えられます。

そうでないと、実務上の問題が生じることがあります。

たとえば、換価猶予の他の条件には該当するが、分割納付していっても1年以内には完納できない見込みの場合。

換価猶予は、1年以内。
特別の場合には最長2年まで延長することは可能ですが、最初から1年を超える見込みの場合に、1年以内に完納となるような虚偽の納付計画を作成するのは脱法行為です。
それに、2年を超える見込みのような場合には、どうしようもありません。

こういう場合で、他の要件を満たす場合には、その機関の裁量で、換価猶予に準じて差押えを解除することは可能ですし、実際に行っている機関はあるでしょう。

ただし、差押えを執行してからの解除は、きわめて手続きが厳格です。
催告の段階や、せめて差押予告が発せられてすぐに相談すれば、機関(市町村長や都道府県税事務所長など)の裁量ではなく、徴税吏員の判断で交渉に応じられることもあります。

できれば、納期限内の相談をお勧めしますが。