統計から被災地の介護保険を見る5

このシリーズの最後に、もう少しだけ書いてみます。
 
1.1号被保険者数の減少
 
人口構造からは、何ごともなければ65歳以上人口は増えていくと考えられるので、これはもちろん、総人口自体の減少が原因です。
津波など直接的な被害で亡くなられた方、避難生活での体調の悪化などによる震災関連死、そして被災地での生活が困難になって転出された方々。
今回は原発関連区域の保険者について個別には扱いませんでしたが(これは特別に独立したテーマとして扱うべき問題と思います)、福島県のデータ中には、長期間避難されている方々が含まれています。

2.要介護(支援)認定率の上昇
 
今回取り上げた自治体では、すべて全国平均を上回る上昇率でした。
もちろん、震災前の状況では、どの要介護(支援)度が多いかなど、自治体によって差がありました。
震災後はそういう自治体ごとの傾向は継続しながらも、全体として要介護(支援)認定者自体が大幅に増えています。

3.サービス受給者数の増加
 
サービス受給者数も、各自治体とも増えています。
個別の状況を見ると、施設・居住系サービスが大幅増加している保険者が目につきます。
まず施設・居住系サービスが増加した後、訪問系など他のサービスも増加している保険者もあります。

4.まとめ
 
ここからは推測により部分が多くなるとは思いますが・・・

過去に報道されてきたように、避難所や仮設住宅など避難生活環境の制約により、要介護(支援)度が重度化した人々は、やはり少なくないと思われます。
生活の変化だけでも、高齢者の心身に影響を及ぼします。
特に、これまで役割があった人々(農林水産業、孫などの養育支援、地域活動など)が、活動の場を失ったことは、心身の機能を維持する上で大きなマイナスになったことでしょう。

住居の損壊や流失など、居住環境喪失者が多いこともあり、施設・居住系サービスのニーズが増加したことは、当然ではあります。
(居住系サービスはともかく、「介護保険施設は住居の確保を主目的とするものではない」という意見もあると思いますが。)

ただ、施設自体、被災したり、人口の減少等でスタッフの確保が困難であったりする中、これだけの増加があったにせよ充足しているとは思えません。
訪問系など他のサービスが増加している地域というのは、それを補完しようとする動きかなのもしれません。
もちろん、訪問系サービスなどでもスタッフの確保は難しい状況ではあります。
ただ、サービス供給量を増やすための難度は、
施設・居住系>通所系>訪問系 (左に行くほど困難) というイメージがあります。
新型インフルエンザなど感染症対策の問題でも、訪問系の方が比較的サービスの継続を維持しやすい面はあります。
自治体の災害対策で、この視点も重要かもしれません。

蛇足です。
以前、厚労省の審議会での池田委員の発言
「ジャーナリズムを通じて被災者の人たちの顔を見ていると、それは悲しみに暮れていますけれども、すごくいい表情をしているんです。自分たちで助け合う自助と互助が感動的なまでによみがえっています。」
「私たちが東日本大震災から学ぶべきことは、そこで自助と互助と共助と公助が見事に動き出したということなんです。」
を批判的に取り上げたことがあります。
http://blogs.yahoo.co.jp/jukeizukoubou/28709997.html

「軽度者のサービスを外すべき」という同氏の持論の展開のために、被災者の状況を曲解して利用すべきではない、と今も私は思っています。
ただ、巨大災害の被災地で何が起きているのか、ということを知り、何ができるかを考え、現在の被災者だけでなく、一般の高齢者、社会全体のために
「どうすれば要介護度が悪化するか」
「どうすれば避難生活の環境下でも維持・改善できるか」
ということを検討していくことは必要ではなかろうか、と考えています。