ノルマと減給

「ノルマが達成できなかったときには給料を減額する」というのは可能なのでしょうか?

まず、労働基準法を見てみます。(以下、この記事の枠囲み内は労働基準法です。)

(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

ということで、賃金などの労働条件は明示しておかなければなりません。

ただし、

(この法律違反の契約)
第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

(法令及び労働協約との関係)
第92条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
2 行政官庁は、法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる。

ということで、就業規則などに明示されていても、労働基準法などに抵触する場合には無効です。


さて、居宅介護支援事業所の介護支援専門員が、一定のノルマを課せられている場合です。
たとえば、
A:ケアプランに併設サービス(または同一法人のサービス)の利用を位置付けなければならない
とか、
B:○件以上のケアプランを獲得すべく「営業」しなければならない
のような場合です。

利用者の意思に反してAを強要することは、居宅介護支援事業の基準省令その他の法令に抵触することが明白なので、明らかに無効です。
Bについてはどうでしょうか?
経営の論理からすれば、一見、問題ないようにも見えますが・・・

(賠償予定の禁止)
第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

この解釈は難しいところですが、少なくとも、介護支援専門員が努力したとしても達成できるとは限らない事項(利用者の入院や要支援への軽度化などもあり得る)について、ペナルティ的な契約をするのは問題があると私は思います。
このあたりは、歩合給などの場合とは考え方が異なるのではないでしょうか。

ちなみに、歩合給であっても、「ノルマが達成できなかったら賃金を払わなくてもよい」ということではありません。

出来高払制の保障給)
第27条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

また、上記のBの考え方が有効と仮定したとしても、ペナルティには限度があります。

(制裁規定の制限)
第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

たとえば、月給20万円なら、日額にして約6,600円ですから、1回のペナルティとしては約3,300円までしか認められませんし、その合計が月額で2万円を超える減額は違法ということになります。

そもそも、この減給は遅刻常習者など就業規則違反についてのペナルティを想定したものと思われ、契約件数未達成などを理由とした減給については、やはり違法性の疑いがぬぐえません。