ワクチン・パブコメの素案(1)

新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種について

(素案)

平成21年9月4日
厚生労働省

1.新型インフルエンザ対策における予防接種の位置づけ

(1)新型インフルエンザワクチン接種の目的
 ・新型インフルエンザ(A/H1N1)については、国民の大多数に免疫がないことから、今後秋冬に向けて、季節性のインフルエンザを大きく上回る感染者が発生し、医療をはじめ、我が国の社会経済に深刻な影響を与えるおそれがある。

 ・このため、今回のウイルスの特徴等も踏まえ、新型インフルエンザ対策の目標を①国民生活や経済への影響を最小限に抑えつつ、感染拡大を防ぐとともに、②基礎疾患を有する者等を守る、とし、様々な対策を講じている。この「基礎疾患を有する者等を守る」、とは、すなわち直接的、間接的に死亡や重症化を防ぐことを意味する。

 ・インフルエンザワクチンは、一般的には、重症化予防、死亡数減少を主な目的として使用されており、今回の新型インフルエンザに対する予防接種も、死亡者や重症者の発生をできる限り減らすこと及びそのために必要な医療を確保することをその目的とする。

(2)予防接種の限界

 ・現在、国内で使用されている季節性インフルエンザワクチンは、重症化や死亡の防止について一定の効果はあるが、感染防止、流行の阻止等に対しては、効果が保証されるものではない。また、極めて稀ではあるが、重篤な副反応も起こりうるものである。

 ・新型インフルエンザワクチンも基本的に同様と考えられるが、今回の新型インフルエンザは、新しい感染症であり、現時点では、有効性や安全性、今後の製造見通しなどについて、一部不確実な面がある。

 ・そのため、新型インフルエンザワクチンに係る対策は、当初は季節性インフルエンザワクチンに係る知見に基づき構築するが、新たな知見が得られた段階で、これを適宜見直していくものとする。

 ・新型インフルエンザ対策は、予防接種のみに特化したものとするのではなく、学校の休業などの公衆衛生対策や抗インフルエンザウイルス薬の投与などの複数の対策を総合的・効果的に組み合わせて、バランスのとれた戦略を構築すべきであり、予防接種は、他の戦略と補完しながら進める。


2.ワクチンの接種について

(1)優先接種の必要性について
 ・ワクチンの接種については、確保できるワクチンの量が限られており、一定量が順次供給されることから、死亡者や重症者の発生をできる限り減らすこと及びそのために必要な医療を確保すること、という目標に即し、優先的に接種する対象者を決めるべきである。

(2)優先接種対象者についての考え方
 ・直接、インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者(救急隊員を含む。以下同じ。)については、インフルエンザ患者から感染を受けるリスクが高く、その結果、新型インフルエンザの重症患者や重症化するリスクが高い者の他、その他一般の患者に対する医療に支障を来すおそれがある。そこで、流行のピーク時であっても、医療体制を維持する必要があることから、インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者については、第一優先とする。なお、WHOの勧告によると、必要な医療体制を維持するため、第一優先として医療従事者に接種すべきである、とされている。

 ・国内外の事例においては、妊婦及び基礎疾患を有する者(※)について入院数や重症化率、死亡率が高いことが確認されており、新型インフルエンザのリスクが高いことが示唆されていることから、これらの者については、優先接種の対象とする。 なお、基礎疾患を有する者の中でも、1歳~就学前の小児の接種を優先する。

※ 基礎疾患:呼吸器疾患(喘息を含む。)、心疾患(高血圧を除く。)、腎疾患、肝疾患、神経疾患、神経筋疾患、血液疾患、代謝性疾患(糖尿病を含む。)、免疫抑制状態(HIV、悪性腫瘍を含む。)

 ・また、海外事例において乳児の入院率が高いこと、国内事例において幼児の重症例がみられていること、小児の感染率が高いことなどが示唆されている。更に、WHOのガイドラインにおいても、5歳未満の小児については、新型インフルエンザ(A/H1N1)のハイリスク者とされている。そのため、就学前の小児については、優先接種の対象とする。

 ・ただし、1歳未満の小児については、予防接種によって免疫をつけることが難しいため、次善の策としてその親に接種し、感染を防ぐことが必要となる。そのため、1歳未満の小児の親については、優先接種の対象とする。

 ・以上より、インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者、妊婦及び基礎疾患を有する者(この中でも、1歳~就学前の小児の接種を優先)、1歳~就学前の小児、1歳未満の小児の両親の順に、優先的に接種を開始する。なお、一つのカテゴリーの接種が終了してから、次のカテゴリーの接種を開始するものではなく、出荷の状況に応じて、各カテゴリーの接種を開始する。

(3) その他の者についての考え方
 ・今回の新型インフルエンザについては、現在の国内の事例において、発症者の約70%、入院患者の約80%が10代以下の若年層となっており、その多くは普段健康な若年者である。今後もこうした世代で感染者が急激に増加し、その中から、重症者が一定程度生じる可能性が高い。

 ・また、高齢者については、季節性インフルエンザにおいて重症化リスクが高い集団である。現時点では、新型インフルエンザの感染者数が相対的に少ないため、基礎疾患を持たない高齢者の重症化事例が多く報告されているわけではないが、今般の新型インフルエンザが、季節性インフルエンザと類似した性質を多く持っていることに鑑みると、基礎疾患を持たない高齢者も、重症化のリスクが高い可能性がある。

 ・こうした観点から、小学生、中学生、高校生、高齢者についても、優先的に接種することが望ましい。また、現在10歳未満で重症化する例が見られるので、特に10歳未満の小学生(低学年)については、可能であれば、優先接種対象者と同様に対処する(なお、基礎疾患を有する小・中・高校生及び高齢者は、優先接種対象者に含まれている)。あわせて、高齢者に対しては、季節性インフルエンザワクチンの接種を促進する必要がある。

(つづく)