第3 本件文書の作成・配布行為に対する兵庫県の対応の可否
(略)
2 本件文書の作成・配布行為の公益通報該当性
本件文書は、マスコミ等に配布されたものであって、庁内の窓口に内部公益通報されたものではない。そこで、まず、その行為が3号通報として保護の対象となる公益通報に該当するかを検討する。(略)
(1)通報対象事実要件充足の有無
ア 本件文書が公益通報に該当するためには、まず、保護法2条3項の「通報対象事実」(通報の対象となる法令違反行為)の要件を満たしていることが必要である。
保護法2条3項は、通報対象事実を、一定の法令違反行為(保護法や政令で定められた法律に違反する犯罪行為若しくは過料対象行為、又は最終的に刑罰若しくは過料につながる行為)に該当する事実に限定している。文書に通報対象事実が記載されているかの判断は、文書内容自体から行うとされているが、現実の通報においては、通報の時点では抽象的な内容や事実を伝えるにとどまることが多いことに照らすと、問題となる犯罪行為のすべてを伝えていなければ公益通報に該当しないというのは社会通念上相当ではない。構成要件の一部を主張していればよいと解するのが相当である。
イ そこで、本件の場合、本件文書の記載内容事態に犯罪行為、すなわち刑法違反(横領罪、背任罪、暴行罪、傷害罪等)になり得る事実の記載があるかどうかが問題となる。
本件文書の7項目をそれぞれ順に見ていくと、事項1(ひょうご震災記念21世紀研究機構の人事をめぐる問題)、事項2(令和3年7月に実施された兵庫県知事選挙をめぐる問題)、事項3(令和7年実施予定であった兵庫県知事選挙の事前運動をめぐる問題)及び事項5(令和5年7月に開催された政治資金パーティーをめぐる問題)は、いずれも通報対象となる法律に違反する事実を含んでいないから、保護法の「通報対象事実」ではない。
これに対し、事項4(贈答品に係る問題)のうち例1~4のコーヒーメーカー、ロードバイク、ゴルフのアイアンセット及びスポーツウェアに関する各記載内容は、その文面上に、県の利害関係者から齋藤知事個人への贈呈であること、「見返り」、「贈収賄」や「特定企業との癒着」という表現があることから、刑法の贈収賄罪が問題になることを指摘している。
また、事項6(令和5年11月に実施されたプロ野球球団優勝パレードをめぐる問題)は、「信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックバック」との事実が記載されていて、その文面上から、刑法の背任罪が問題になることを指摘している。
さらに、事項7(職員に対する言動ないし対応の可否)について検討すると、保護法2条3項の別表上、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(いわゆるパワハラ防止法)」が通報対象となる法律として挙がっているところ、パワハラ防止法は、現時点では刑罰規定又は過料規定がある法律ではない。しかし、本件文書の事項7の末尾には、「これからますます病む職員が出てくると思われる」とか、「(職員からの訴えがあれば)暴行罪、傷害罪」との記載があり、調査をすれば、刑法の暴行罪、傷害罪等が成立するほどの問題性の大きいパワハラ行為が顕在化する可能性が指摘されている。
したがって、本件文書の記載内容のうち、事項4、同6及び同7は、3号通報の「通報対象事実」の要件を充たしている。
ウ 多数の通報内容が1通の文書に記載されている場合の取扱い
本件では、本件文書に記載されている7項目のうち、3項目は「通報対象事実」に当たるが、残る4つの事項は、これに当たらない。
(略)
通報対象事実は、それぞれ個別に扱うのが基本である。しかし、1通の文書中に通報対象事実に該当する部分と該当しない部分が混在している場合、該当しない事項について通報者の探索を許せば、結局、本来は探索が許されない事項についても通報者が特定されることになる。仮に通報対象事実が1つだけで他の事項はすべて非該当事実であった場合でも、通報者を保護し、法令の遵守を図るという保護法の趣旨とその目的に鑑みれば、保護法は通報者の探索を禁じていると解するのが相当である。
他方、解雇の効力や不利益取扱い禁止の局面においては、通報対象事実に該当する事項だけを保護すれば保護法の目的は達成することができる。
したがって、1通の文書中に通報対象事実に該当する事項と該当しない事項が混在している場合、事業者は、文書に記載されている事項のいずれについても通報者の探索は許されないが、不利益取扱いについては、個別に対応することができると解するのが相当である。(略)
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このあたり、やはり裁判官経験者が取りまとめたと思われるような(見方によっては、くどくてわかりにくい)文章が続いています。
(つづく)