百条委報告書8

IV 公益通報者保護にかかる調査の内容と結果について

1 委員会としての判断

 ア 認められる事実

事実経過
R6.3.12(火) 元県民局長が文書をマスコミ、県会議員、警察に配布。
 3.20(水) 齋藤知事が当該文書を民間人から入手。
 3.21(木) 当該文書に関する協議のため、齋藤知事が片山氏、小橋氏、井ノ本氏、原田氏を招集し、片山氏らに文書の作成者や目的を含め、調査するように指示。この際、公益通報者保護の議論はなかった。
 3.22(金) 3.23(土) 人事当局から元県民局長の公用メール1年分を調べるように指示を受けた担当課長はデータを人事当局に提出。公用メールの調査にあたって本人の同意は得ていない。(4月下旬に元県民局長の公用パソコンのファイルの操作ログ3年分も提出した。)
 3.23(土) 齋藤知事は、片山氏から元県民局長の事情聴取を行うという提案を受け、それを了承。調査については片山氏に一任された。
 3.25(月) 片山氏及び人事当局が元県民局長及び職員2名の聞き取り調査を実施した。片山氏は元県民局長の調査の際、公用パソコンに私物USBがあったが、取り外すように指示し、公用パソコン1台だけを県庁に持ち帰った。なお、職員1名の私用スマートフォンのLINEの調査も行った。
  元県民局長から人事当局に電話があり、「自分単独で作成し、噂話をまとめたもので、周囲の者を巻き込まないように」との要請があった。
 3.26(火) 元県民局長の退職保留が決まった。
 3.27(水) 小橋氏は、齋藤知事に対し、教育委員会ではこのような問題の時には第三者に調査させることが多いと進言。
  人事当局の用意した知事記者会見での想定問答は、内容の詳細については調査が必要なので言えないという説明だったが、齋藤知事は元県民局長が作成した文書について「嘘八百」「元県民局長本人は認めている」と発言。
 4.1(月) 人事当局は、県の特別弁護士に、第三者機関調査やSNSでの当該文書の拡散、公益通報としての取扱いの要否などを相談。
  特別弁護士からは、公益通報の手続がされた段階でいったん判断する必要がある、第三者機関調査については、費用や時間を要することから内部調査で十分との見解を得る。
 4.4(木) 元県民局長が公益通報受付窓口に通報。
  人事当局によれば、4月4日に元県民局長が公益通報受付窓口に通報した時点で、公益通報の調査結果を待たないと処分はできないと考え、すぐに小橋氏と井ノ本氏に進言し、齋藤知事も了承したとのこと。
  なお、齋藤知事はこうした進言を受けた記憶がないと否定している。
 4.15(月) 齋藤知事は、「風向きを変えたい」との理由から、処分をできるだけ早くしたほうがいいと指示。
  人事当局によると、井ノ本氏から公益通報の調査結果を待たずに処分できないか検討を指示されたが、公益通報の結果を待つべきと進言した。
  なお、齋藤知事は人事当局に対して流れを変えるために公益通報の調査結果を待たずに処分できないかと指示した記憶はないと否定している。
 4.17(水) 人事当局によると知事の指示による井ノ本氏と人事当局との元県民局長の処分スケジュールのやりとりは下記のとおり。
  ・4月24日に処分する案の作成を井ノ本氏が指示
  ・4月24日に処分する案を井ノ本氏に提出し、齋藤知事が了解
  ・人事当局が4月24日処分案は現実的に無理と判断し、5月17日処分案を井ノ本氏に相談。井ノ本氏からは5月10日を案1、5月17日を案2とする指示があり、齋藤知事は5月10日で了解した。
 4.24(水) 人事当局によると、井ノ本氏から連休明けの5月7日処分案の指示があり、弁護士と相談して処分日を5月7日に決定した。
  井ノ本氏は、人事当局との処分日のやり取りは自分の判断ではなく、知事と話をした上で日程を決めたと証言している。
  なお、齋藤知事は5月7日処分の決定事項を報告されたと証言している。
 5.2(木) 元県民局長に対する綱紀委員会が開催された。
 5.7(火) 元県民局長の処分を公表。

 

 イ 事実に対する評価

1 公益通報者保護法違反について
(1)外部公益通報
 元県民局長は、議員、マスコミ、警察の特定の者に文書を配布している。
 齋藤知事は真実相当性が認められないと再三説明をしているが、真実相当性は公益通報に当たるか否かとは関係がなく、保護要件にとどまる。
 元県民局長の公用メール及び公用パソコンに保存された資料に基づき、クーデターや転覆といった言葉が並んでいたことや、元県民局長作成の人事案や知事を貶める資料があったことなどをもって、文書配布は不正な目的の行為に当たり、公益通報ではないと判断したという証言がある。しかし、当該文書入手(3月20日)、協議時点(3月21日)ではまだ公用メール及び公用パソコンの調査は行われておらず、当該文書の内容から不正な目的が明らかでない限り、公益通報ではないとの判断は調査後に行われるべきものであり通報時ではない。仮に公用メール及び公用パソコンの調査も含めて3月22日に作成者の特定を開始したことの正当性を主張するのであれば、公益通報者保護法に基づく指針に定められた「通報者探索防止措置」は事実上意味がなくなり、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関がとってよい行為とは考えられない。さらに「通報者探索防止措置」を認識せず行われた調査の中で、公用PCの中の情報から非違行為を認定し懲戒処分にしたことは、違法収集証拠排除法則の法理に反するものであり、告発者潰しを行う材料にしたことは非常に不適切であると考える。
 なお、人事当局は特別弁護士に相談の上、不正の目的があったと判断したことはないと証言しており、県として不正の目的があったと公に認めていない。また、複数の参考人は、「専ら」公益を図る目的の通報と認められる必要はなく、交渉を有利に進めようとする目的や事業者に対する反感などの目的が併存しているというだけでは、「不正の目的」であるとは言えず、不正目的の認定は慎重に行う必要があるとしている。
 「通報対象事実」については、少なくとも阪神オリックス優勝パレードにかかる信用金庫からのキックバックについて背任罪の可能性があり、通報対象事実が含まれている。なお、刑法の背任行為として刑事告発され県警に受理されている。
 以上のことからすると、今回の調査では、元県民局長が齋藤県政に不満を持っていた事情はうかがえるものの、元県民局長は今回の文書作成については後輩職員のためを思い行ったと主張しており、人事課調査による判断と同様に、不正な目的であったと断言できる事情はないと考える。
 よって、元県民局長の文書は公益通報者保護法上の外部公益通報に当たる可能性が高い。

(2)体制整備義務違反
 公益通報者保護制度を所管する消費者庁は、公益通報者保護法に基づく指針第4の2(1)不利益な取扱いの防止に関する措置及び(2)範囲外共有等の防止に関する措置は内部通報した場合に限定せずに、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も公益通報者を保護する体制の整備が求められるとしている。他方、今回の文書の場合には、通報の探索が例外的に許容されるのではないかという参考人の意見もあった。
 しかし、上記のとおり、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関としては、公益通報者保護法に基づく指針を原則通り遵守すべきと考えられる。
 文書内容の事実確認よりも通報者の特定を優先した調査や3月27日の記者会見での文書作成者を公にしたこと、元県民局長のプライバシー情報の漏洩などは、公益通報者保護法に基づく指針第4の2(2)「範囲外共有等の防止に関する措置」を怠った対応であり、現在も違法状態が継続している可能性がある。