前記事の、独居利用者の訪問介護(生活援助)で、別居している家族がたまたま訪問している場合について。
ネット上某所では、どこかの市の資料を参考に提示している人がありました。
その資料中には、よいことも書いてあるのですが・・・
(色つきは問題箇所)
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同居家族等がいる場合の生活援助算定の留意事項
・利用者が一人になる時間帯に提供しなければならないサービスであること。
ただし、同居家族等に障害、疾病がある場合を除きます。
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これは行政の文書としては不適切でしょう。
いや、多くの場合は結果として有効なのでしょうが、考え方が適切でないので、例外的な場合に対応できなくなります。
近年なら、たとえば同居家族がオンライン勤務やオンライン授業を受けている場合。
オンライン勤務でも、ある程度は裁量の自由があって、要介護者の食事を(ついでに家族自身の食事も)作る時間が取れそうなら、それはそれで結構です。
でも、オンライン会議でPCからずっと離れられないような場合もあります。
オンライン授業も、PC前から離れられない事態は想定できますね。
もちろん、その業務なり授業なりが終わってからでも間に合うようなら、「その生活援助サービスの必要性がない」ということもありますが、単に家にいるだけでは、(障害。疾病がなくても)生活援助の算定不可とは断定できません。
オンラインでなくても、締め切りに追われた作家、漫画家などが、「今夜の◎時までに」と編集者に迫られている場合とか、いろいろ考えられます。
逆に、「利用者が一人になる時間帯」のサービスでも、家族が作り置きできる場合など、提供が不必要となることはあります(これについては、資料の別の場所で触れられています)。
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同居の判断と家族介護が期待される別居の家族の範囲
同居家族等かどうかは以下の判断に沿って位置づけられると考えています。また、社会通念上利用者の援助を行うことが期待される近距離に家族がいる場合には、家族介護が優先されるものと考えられます。その家族の生活実態を総合的に勘案し、家族介護を行うことができる状態かどうかについて判断する必要があります。
1)同居の判断(略)
2)生活実態を勘案して判断する場合
・同一敷地内の別棟に家族が居住
3)家族介護が期待できる近い距離に別居家族がいる場合
・利用者と別居の家族の居住地が、社会通念上利用者の援助を行うことが期待される程度に近い距離にある場合には、家族介護が行えるかどうかの検証が必要です。
(例)〇〇市内とその近隣市町村等が居住地の場合
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〇〇市(その資料を作成した市)は、たしか隣接する大きな市とつながるような市街地があり、比較的交通の便がよさそうですが、それでも近隣市町村から別居家族が通ってくるようなことを当てにして、生活援助の算定の可否を判断するのは疑問です。
まあ、同一市内であっても、報酬告示にある「同居家族」でない以上は、「算定不可」とするのは問題ですが。
「社会通念上利用者の援助を行うことが期待される程度」の社会通念が、この資料を作った人と、私とでは違うような。
結果的には同じようでも、「算定不可」ではなく、別居家族が支援するから「その生活援助サービスの必要性がない」ということです。
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同居家族等がいる場合の身体介護の考え方
(1)自立生活支援のための見守り的援助
・同居家族等がいる場合の「自立生活支援のための見守り的援助」は、生活援助と同様に利用者本人に関わるサービス以外の内容については算定できません。
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え?
それ、平成12年老計第10号などの通知や、報酬告示本体など、どこかに書いてありましたか?
「自立生活支援のための見守り的援助」は法的には身体介護中心型として位置づけられていますから、裁判で市が負けてもいいんですか?
ずっと以前、<「反射的利益」で考えてみる>という記事を書いていますので、
https://jukeizukoubou.blog.fc2.com/blog-entry-835.html
その中の<「自立生活支援のための見守り的援助」は誰のためのものか>などもご覧いただければ、と思います。
(この記事の老計第10号は改正前ですが、主旨は変っていないはず。)
別の例えをすれば、通所介護や通所リハビリなどで、機能訓練、リハビリなどの一環として、絵を描いたり小物を作ったりすることがありますよね?
その材料費は原則利用者負担として、作品を持ち帰って、子や孫にプレゼントしたら、報酬返還ですか?
裁判で負けませんか?
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ヘルパー同行の外出介助(買い物介助等)
訪問介護サービスは、本来居宅でサービスを提供することが原則であり、外出介助についてはあくまでも例外的に提供できるものです。
たとえば、同居家族等がいる場合にヘルパーが同行する買い物介助については、生活援助ではなく身体介護なので、同居家族の有無については基準上では明記されていません。
しかし、あくまで外出介助は例外的なサービスであり、本人が日常生活上最低限必要な行為を支援するという位置づけで行なわれることが必要です。
このことから、同居家族等がいる場合で、買い物介助等を位置づける場合には、「本人に必要な物の購入で同居家族の分は購入しないこと」や「2世帯家族等であり本人と同居家族と生計が別であること」や「食事を家族と別にしている」等、あくまで利用者本人の日常生活上必要な物の購入や最低限必要な行為を支援する位置づけが必要です。
たとえば、買い物介助で食材を購入する場合、本人と家族の分を分けることが困難な場合や食材を購入して調理は家族がおこなうことがあれば位置づけとしては適切ではないと考えられます。
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「同居家族の有無については基準上では明記されて」いない、ということの意味を、もっと丁寧に考えてください。
「買い物介助で食材を購入する場合、本人と家族の分を分けることが困難な場合や食材を購入して調理は家族がおこなうことがあれば位置づけとしては適切ではない」
適切でないかどうかは、居宅サービス計画なり訪問介護計画なりを見て考える必要があります。
家族の分が入っていようがいまいが、店まで行って(杖歩行でも車いすでも本人の状況により適切な移動手段ならOK)、本人が頭を使いながら商品の選択を行い、お金を支払い、それらが認知症の予防や進行緩和などに資すると判断されるのなら、身体介護としての目的は達成できるといえるでしょう。
なお、それ以前に、同居家族がいるのに(本人の分だけだとしても)生活必要品の購入のために、外出介助が必要かどうか、という検討は入ってくるだろうとは思います。
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複数の要介護者(要支援者等)がいる場合の留意事項
(1)算定の振り分けについて
複数の要介護者(要支援者等)がいる世帯において、同一時間帯に訪問介護を利用した場合の取扱いについては、それぞれに標準的な所要時間を見込んで居宅サービス計画等に位置づけ、生活援助については、要介護者(要支援者等)間で適宜、所要時間を振り分けることとなっています。
たとえば、要介護者と要支援者等の世帯において、生活援助を位置づける場合には要介護者の居宅サービス計画にのみ位置づけて、要支援者等の介護予防サービス計画には位置づけないで算定することは原則できません。したがって、各利用者に対する算定の振り分けは、サービスに対する各利用者が占める割合に応じて合理的な理由で振り分ける必要があります。
(2)振り分けた算定とサービス内容について
要介護者(要支援者等)間の振り分けについては、算定上行うものであって、実際のサービス上の振り分けとは必ずしも一致しない場合もありえます。
(例)要介護者の夫婦世帯に対して、調理を振り分けた場合に、算定上、夫に振り分けた日なので夫の分しか調理しないということにはなりません。現実は妻の分の調理もおこなうはずです。
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<要介護者と要支援者等の世帯において、生活援助を位置づける場合には要介護者の居宅サービス計画にのみ位置づけて、要支援者等の介護予防サービス計画には位置づけないで算定することは原則できません。>
これ、根拠はないはずです。
日本語や数学上の意味とすれば、50:50 とか、70:30 だけでなく、100:0 もあり得ます。
<参考>要介護者夫婦の生活援助
https://jukeizukoubou.blog.fc2.com/blog-entry-783.html
この市の資料は、(1)と(2)の相性がよくないと思いますが、少なくとも「原則できません」の「原則」以外にどのような場合があるか、ぐらいは例示してもらえないと、私が事業者や利用者、家族なら納得できないところです。