前記事の末尾で触れた読売新聞記事ですが、一般公開されていないので、紙の紙面(?)から抜粋で。
[戦争の末路 戦後79年]<5 最終回>過剰な抑留 悲劇生む 国際政治学者 小林昭菜さん
(2024/08/20)
79年前のこの時期(略)ソ連が中立条約を無視して、満州、南樺太、千島列島へと侵攻し、日本兵を拘束し続けた。その数60万人超。のちにシベリア抑留と呼ばれることになるこの問題を、米ソ資料を基に研究する多摩大准教授の小林昭菜さん(42)と見つめ直す。
(略)
10年以上前ですが、モスクワで1年かけて公文書の調査をしました。
(略)
<日本を早く降伏させたい米英から秘密裏に対日参戦を促されていたソ連は、対独戦の終結後、準備に取りかかり、1945年7月のポツダム会談で最高指導者スターリンは、8月半ばまでの参戦を伝える。だが、8月6日の原爆投下で事態は一変する。>
米英の力だけで日本が降伏、占領される可能性が出てきました。スターリンは侵攻の前倒しを指示し、8月9日に満洲侵攻を開始させると、同月23日には「捕虜の受け入れ、配置、労働使役について」と題された極秘指令書に署名します。
想定人員は50万人。実際には10万人以上も多いことに気づくことなく(略)混乱の中で、ソ連各地の収容所へと移送していったのです。
<許容限度を超え、満足な食糧もない不衛生な収容所では、衰弱した捕虜が次々と死んでいく。小林さんによると、満州北側のハバロフスク地方では45年の12月、1日平均50人近くが亡くなっている。>
ソ連はすでに、欧州から連れ出した300万人超の捕虜を使役していました。このうち、病人ら70万人の解放が発令されたのは8月13日。その指令書には、日本人捕虜の受け入れについての言及も見られます。この大量の捕虜の出し入れは、偶然の符号ではないでしょう。国際法や人道法よりも優先すべきことがあった。戦争で2660万人が犠牲になった自国の復興のための労働力。その数合わせの過程で、計算違いが起きたのです。
(略)最終報告と確認できたのは1945年12月18日付。記録された数を合計すると61万1237人でした。
ソ連は、第2次世界大戦で2660万人もの国民を失っています。捕虜の獲得は、この穴を埋める意図がありました。
忘れてはならないのは、ソ連による捕虜の労働使役に対して、戦時の協力関係にあった米英が黙認していたという事実です。むしろ英国は、ドイツからの賠償徴収の方法として、やはり使役を検討した時期がある。戦後間もない9月には、対日問題の話し合いの中で捕虜移送について問うことはあっても、「ドイツの将兵と同じで、捕虜に賠償させることに疑念はない」とするソ連閣僚を、英米ともとがめてはいない。
やはりどこかに、戦勝国の戦利品という感覚があるのです。もちろんソ連の抑留は「日本軍隊は完全武装解除後、各自の家庭に復帰する」としたポツダム宣言に完全に違反し、戦後は捕虜の人道的取り扱いも議論されるようにはなります。
それでも、戦争で勝ったものが秩序を決め、ルールを構築する世の中は、残念ながら今も変わっていないのではないかと思えてなりません。(以下略)
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なるべく分量を減らそうと思いましたが、それでも長くなりました。
抑留の悲惨さ、20世紀半ばの当時であっても国際法等に違反していること、などについては、あちこちの文献、記録等でもうかがえると思います。
>忘れてはならないのは、ソ連による捕虜の労働使役に対して、戦時の協力関係にあった米英が黙認していたという事実
それはそうなのでしょうが、米英が黙認していたからといって、ソ連に責任がない、あるいは米英より責任が軽いということではありません。
(殺人や誘拐等の実行犯と、それを黙認していた人と、責任の軽重は明らかです。)
そもそも、日本はナチスドイツと異なり、第二次世界大戦でソ連の国土を荒らしてはいません。
国際法やポツダム宣言に反しているだけでなく、道義的にも日本人を抑留して労働させる理由が成り立ちません。
もちろん、1956年の日ソ共同宣言で、それぞれの国民等の賠償請求権は相互に放棄していますし、今さらロシアに何らかの経済的請求ができるわけではありません。
ですが、米国政府にも日本政府にも原爆被害の賠償責任を問えなくても、「原爆投下は国際法違反」という判決は意味を持っています。
同様に、ソ連が不当に日本人を抑留したこと、それにより多数の死者、帰国できなかった人々がいたということは、忘れてはならないし、詳細に解明すべきことです。
「だから、ロシアとはつきあうな」という意味ではありません。
ソ連やロシアが過去にどういうことをしたか、その原因は何か、というようなことを理解したうえで、つきあい方を考えるべきだ、ということです。
「遠い親戚より近くの他人」などとお気楽なことを主張する参議院議員を信用するのではなく、強盗誘拐殺人などの犯歴のある「近くの他人」(しかも嘘つき)と、どのように対応していくべきか、考えるべきと思います。