パリオリンピックが終わりました。
表題では「光と影」としていますが、まず影から。
失格負け級、柔道でいえば注意3枚、サッカーならレッドカードなのが、次の3件(順不同)。
1)生命に関わる柔道の審判
2)セーヌ川での水泳強行
3)SNS等での誹謗中傷
1は柔道男子60kg級での「待て」問題。
誤審で日本選手などが負けとされるのは茶飯事なので、国際審判のレベルが低い現状では仕方がない面があるが、締め技は生命に関わる。審判の「待て」が聞こえていなかった、という相手選手の主張が正しいとしたら、相手選手に触れるなどして伝えなければならなかった。
これで永山選手が死亡や重度障害などになっていたら、審判やジュリーは業務上過失致死などに相当するのではないか(実際にフランスでの刑法に問われるという意味ではなく、それに相当する責任があるという意味)。
2はトライアスロンで水質が基準を満たさず、延期になったことを含めて。
水質の問題だけでなく、川の流れのきつさを訴える選手もいた。フランスには、サーフィンを行ったタヒチだけではなく、セーリングを行った南仏など、2方向に海を持っているのだから、「セーヌ川というブランド」にこだわるべきではなかった。
3は選手や審判等へのSNSなどでの誹謗中傷。
これは主催国やIOCや競技団体が悪いというより、ネット上のマナーの問題ではある。ただ、大会運営上の問題を訴えるのはわかるので、誹謗中傷ではない意見を受け付けるような手段を、IOC等が考えるべき時期に来ているのかもしれない。
2について補足すれば、選手村の評判が悪かった(食事など)ことを含めて、フランスという国、文化の「理念倒れ」の問題があるかもしれません。
ビーガン、廃棄食材、温暖化対策など、いろいろ言い分はあるのでしょうが、アスリートが良質のタンパク質、協議によっては高カロリーなどを必要とする、という現実を理解する(勘案する)能力に、いささか欠けているようにも思えました。
英仏で比較すれば、フランス革命では王政府側だけでなく多くの生命が失われています。英国史でも死者は出ていますが、たとえば名誉革命のような政変は、フランス史ではあまり見かけないようにも思います(現実主義傾向の強い英国も、パレスチナでの三枚舌やアヘン戦争など、汚点もあります)。
近年のムスリム女性の服装に対するフランスの規制も、ある意味、「政教分離原理主義」みたいな危うさを感じます。
ちょっと別の視点ではありますが、東京五輪の際の「オ・モ・テ・ナ・シ」の意味が、パリ五輪を見て、わかってきたような気もします。
次に、「失格負け級」ではない話題。
1)性別問題
ボクシングの「女性選手」が、XY染色体を持っていたとされる件です。
途中、トランスジェンダー選手(男→女に転換)という誤情報も出ましたが、出生時から女性として育ってきた選手です。
これ、理念上、女性として扱われました。
今大会では仕方がないことですが、IOCとIBAのどちらが正しいか、というようなことではなく、科学的な面、競技者側(対戦相手を含む)からの視点など、複数の分野から検討を続けるべきではないでしょうか。
たとえ、すぐに(たとえば4年後のロサンゼルス大会)結論は出そうにないとしても。
2)(生命に関わるほどではないかもしれないが)競技の公平性の問題
まず、柔道の審判については、質の向上への取り組みを継続して行ってください。
柔道団体で3対3のスコアになった場合の決勝戦階級の決定については、電子ルーレットのようなブラックボックスは避けた方がよいと思います(主催者側に、フランス有利という意図がなかったとしても)。たとえばサイコロの目は六つあるから、古式ゆかしきバクチ的方法でも。
審判以外に、たとえばスポーツクライミング女子決勝の森秋彩選手が届かない課題の問題。
身長154cmの選手が不利になる課題、というのはやむを得ないと思います。それは、バスケでもバレーでも起こり得る。
でも、その選手が最善を尽くしたとしても、実質的に競技を始められない設定は、相対的に身長の低い女性が多い日本人に対しての人種差別、という疑いが生じます。本人はいわないけどね。
もし、今回の課題を身長が低い選手の排除のために作ったとしたら犯罪的だし、気がつかなかったというのなら、認識不足ではあるけれど今後の大会では気をつけてください、ということかと。
3)号泣問題
柔道の阿部詩選手が個人戦で負けた後、号泣が止まりませんでした。
私は(柔道選手のイメージとしては)意外だったのですが、批判するつもりはありません(だからといって、特別に好感もありません)。
ただ、会場で「ウタコール」が湧くなど、海外では好意的に受け取られていたようです。
ちょっと文化的な違いがあるのかな、とも思います。感情の吐露に対して。
まあ、止めようとしても止められない状態だったのでしょうし、SNS等で彼女を非難するのは、ちょっと違うようにも思います。
それより、後刻、落ち着いた(ように見える)彼女が、落ち着いた口調で受け答えしているのは好感を持ちましたし、団体戦での逆転勝利はうれしかったです。
(つづく)