手術なしの性別変更

手術なしで性別変更認める 外観要件「違憲の疑い」 男性から女性に・広島高裁
時事通信 7/10(水) 11:09配信

 性同一性障害と診断され、性別適合手術を受けていない当事者が戸籍上の性別を男性から女性に変更するよう求めた差し戻しの家事審判で、広島高裁は10日、性別の変更を認める決定を出した。

 性同一性障害特例法が規定する外観要件について「違憲の疑いがある」とした。代理人の弁護士が明らかにした。

 最高裁が昨年10月、同法で規定される生殖不能要件を「違憲」とした上で、外観要件については高裁に審理を差し戻していた。

 広島高裁は決定で、同障害に対する身体的治療としての性別適合手術について、現在では必要かどうかは「患者によって異なる」と指摘。「身体への侵襲を伴う手術を甘受するか、性別変更の審判を断念するかという二者択一を迫る過剰な制約」と述べ、「違憲の疑いがあるといわざるを得ない」とした。

 その上で、「近似する外観を備えている」とした要件についても「変更後の性別の外性器と特段の疑問を感じない状態で足りる」と指摘。同障害ではホルモン療法を受けるのが通常で、「外性器の形状に変化が生じることは医学的に確認されている」とし、申立人についても「身体の各部の女性化が認められている」とした。

 性別変更の家事審判は争う相手方がいないため、今回の決定はそのまま確定する。

 代理人の南和行弁護士は「判断する方向性や判断の解釈が明確になったので、各家裁の個別の審判の運用に影響があると思う」と述べた。

 申立人は弁護士を通じ「物心ついた時からの願いがやっとかないました。社会的に生きている性別と戸籍の性別のギャップによる生きにくさから解放されることを大変うれしく思います」とのコメントを出した。 
https://news.yahoo.co.jp/articles/0b8a67cf48cc8045d8d388f595e3a86abbf76386

 


2023年10月25日の最高裁判決で、
「手術無しで性別の変更を認めるよう求めた当事者の申し立てについては、変更後の性別に似た性器の外観を備えているという別の要件について審理を尽くしていないとして、高等裁判所で審理をやり直すよう命じ」た件
https://jukeizukoubou.hatenablog.com/entry/2023/10/25/214443

を受けた高裁判決です。

 

ポイントとしては、次の3点でしょうか(あくまで私見です)。

1)性同一性障害に対する身体的治療としての性別適合手術について、現在では必要かどうかは「患者によって異なる」
2)(他の性別の性器に係る部分に近似する外観という要件は)「変更後の性別の外性器と特段の疑問を感じない状態で足りる」
3)(申立人は)「身体の各部の女性化が認められている」

 

1は、この申立人については手術不要(だが、必要な患者もあり得る)。
つまり、全ての性同一性障害の人が手術不要で性別変更できるというわけではないということ。

 

2と3は、いろいろ難しいところです。
本件(男→女)でいえば、女性の身体、女性の性器と全く同じ外観にしなくてもよい(が、特段の疑問が生じるような状態は不可)。

3の「身体の各部」って、どこまでを指すのでしょう?
乳房がふくらみ、尻などに脂肪がつき、というあたりまでは想像できるのですが、たとえば陰茎が陰核に見えるような程度まで(そこまでではなくても、陰毛に隠れる程度ぐらいまで)変わるものなのでしょうか?

 

公衆浴場的な場所で、一般女性※が違和感(というより恐怖)を覚えないように、ということなら、どの程度の外観なら性別変更が認められるか、というのは一般女性が知りたいところではないでしょうか(私を含めた男性が、特に興味半分で知りたがることではないだろうとは思います)。

といっても、この申立人の身体の外観を公開することは無理でしょう。
特に性器部分の外観については、たとえ本人に公開の意思があったとしても(ないと思いますが)、法律上もできないでしょう。
せいぜい、専門学会でどうか、ぐらいのこと。


また、2023年10月25日の最高裁判決の際は、手術で女性に性別変更した当事者が、最高裁決定に憤り、という報道もありました。
(元記事はリンク切れですが、上のリンク先のブログに残っています。)

 

本件については、上の記事(色つき部分)にあるように、これで確定です。
今回の広島高裁の裁判官は女性なので、審理にあたって申立人の身体の写真でも見ているのなら、一般女性※が違和感を抱きにくいような外観だろうとは思います。
ただ、一般女性や、手術を受けて女性となった当事者など、社会的にはこれから説明や判断基準の設定など、いろいろな課題が山積しているのではないでしょうか。
(必ずしも、本件判決に反対しているわけではありませんが。)

 

※文中の「一般女性」は、手術を経て「女性になった」人も含む場合があります。