最高裁判決の「除斥期間」1

優生保護法は「違憲」、強制不妊訴訟で最高裁大法廷が国側に賠償命じる…除斥期間認めず
読売新聞オンライン 7/3(水) 15:13配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/d1f275989720b186b8d6a6406bfd09c35c1dbb2c

 

本件については他のメディアでも報道されていますが、「違憲」は予想どおりとして、除斥期間の取扱いが焦点だと思っていました。
賠償命令も想定はしていましたが、どのような理由付けをするか。
実際、除斥期間の適用を認めなかったのですが、それについての詳細を探っていきます(できるかな?)


優生保護法 最高裁判決の要旨(2024.7.4読売新聞朝刊)から抜粋

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〔多数意見〕
(略)
 不妊手術の主な対象者は、特定の障害などを抱える者であり、その多くが権利行使について種々の制約のある立場だと考えられる。96年に旧法の規定が削除される前の時期に、国への損害賠償請求権の行使を期待するのは、極めて困難であったというべきだ。
(略)
 以上のことを踏まえて、2020年に改正法が施行される前の民法724条後段に対して判断した1989年の最高裁判決について、改めて検討する。
 89年判決は、同条後段は不法行為で発生した賠償請求権の除斥期間を定めた規定であり、提訴が除斥期間の経過後だった場合、裁判所は当事者の主張がなくても請求権が消滅したと判断すべきで、「除斥期間の主張が信義則違反または権利乱用である」という主張自体が失当であると判断した。
 この判決を維持した場合、今回のような事案で、到底容認できない結果をもたらすことになりかねない。除斥期間の主張が信義則違反または権利乱用とされる場合は極めて限定されると解されるものの、そのような場合があることっを否定するのは相当でない。
 このような見地に立って検討すれば、裁判所が除斥期間の経過によって請求権が消滅したと判断するには、当事者の主張がなければならないと解するべきだ。請求権の消滅が著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない場合は、除斥期間の主張が信義則に反する、または権利の乱用として許されないと判断できるのが相当だ。これと異なる89年判決やその他の最高裁判例は、いずれも変更すべきだ。
 今回の訴訟では、国が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の乱用として許されない。請求権が消滅したとはいえない。
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不妊手術の主な対象者が、特定の障害などのために、権利行使について制約のある立場だ」
「法改正前に損害賠償訴訟を起こするのは極めて困難だった」
という部分(青色)は、従来の裁判でも「除斥期間の経過により権利消滅」というのを適用すべきでない、という理由として扱われてきたのと同様だと思います。

異例、というかひっくり返ったのは、
「(提訴が除斥期間経過後なら)裁判所は、当事者の主張がなくても請求権が消滅したと判断すべき」
「『除斥期間の主張が信義則違反または権利乱用である』という主張自体が失当」
という部分(茶色)を否定したこと。

除斥期間経過で請求権を消滅させることが、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない場合は、除斥期間の主張が信義則違反、または権利の乱用として許されないと判断できる」
と明確に言い切ったこと(紫)です。

 

(つづく)