直葬ではない生活保護者の葬儀2

3 判断
(1)本件記録によれば、平成○年○月○日、処分庁は審査請求人から葬儀関係資料を受領した後、A社に架電して審査請求人の妻の葬儀内容について問い合わせ、葬儀で僧侶による読経があったこと等を確認した。後刻、審査請求人に架電し、親族が僧侶を呼ぶように言い出したこと、僧侶に係る費用(以下「読経料」という。)○○○円はその親族が支払ったことを確認した。そこで、処分庁は、葬儀費用合計額を○○○○○○○円(その内訳は、市営葬儀使用料○○○○○○円、告別式場使用料○○○○○円、A社の領収書に明細として記載された各費用の合計額○○○○○○円、死亡診断書○○○○○円のほか、読経料○○○○○○○円)と認定し、同合計額が葬祭扶助の基準額である○○○○○○○円を超えている点で最低限度の葬祭を行っていないこと、また、保護課長通知に依拠し、葬祭扶助はあくまで最低限度の葬祭を行った場合に適用されるものであり、高額な葬祭費用に対して葬祭扶助費の支給限度額を適用する取り扱いは認められないことを理由に、本件申請を却下したことが認められる。
 審査請求人は、妻が死亡した同月○日時点から処分庁に対して葬祭扶助を申請する意思を示しており、同月○日に処分庁から葬祭扶助費申請書を手渡されていたが、翌日もまた処分庁から基準額を超える葬祭扶助の適用はできない旨の説明を繰り返し受け、読経料が○○○円かかっていることを確認される中で、同日は同申請書を提出しなかった。その後、同月○日になって本件申請書を提出したものの、その金額欄に葬祭費用の内訳や金額を記入していなかった。ただし、処分庁は同月○日、審査請求人から同人が支払った葬祭費用の内訳及び金額(ただし、生花は親族一同で支出したことを窺わせる記載がある)を示す葬儀関係資料を受領している上、僧侶による読経は親族の強い意向を受けたものであって読経料は審査請求人が支出したものではないことを確認しており、本件申請は読経料の支給を求めるものではないことは処分庁自らが認めている。
(2)まず、第一に、審査請求人が本件申請で読経料につき葬祭扶助の支給を求めていないにもかかわらず、処分庁が本件処分にあたって読経料を含めて葬儀費用合計額を○○○○○○○円として認定した根拠は、葬儀費用とは葬祭に係るすべての費用であり、これには読経料が含まれるという見解によるものである(小山進次郎『改訂増補 生活保護法の解釈と運用』(昭和26年12月15日改訂再版発行)285頁参照)。しかしながら、葬祭は信仰する宗教や地域の慣習等に応じて様々な内容・方法のものがみられ、そもそも法18条1項4号が「納骨その他葬祭のために必要なもの」として、葬祭の内容・方法等に関して厳密に規定していないのは、以上のような多様性を含意するものと解される(小山・前掲書も「読経」を例示したにすぎないとみるのが相当である)。その上、葬祭の内容・方法等に関する個人の信条・価値観は家族構成や生活様式・文化等の変化とともに多様化しており、少なくとも今日では読経と葬祭は一体的なものであると一概に言うことはできない。それにもかかわらず処分庁が審査請求人の申請意思に反して読経と葬祭を一体とみなし、読経料が葬祭費用に含まれると認定した上で、葬祭扶助はあくまで最低限度の葬祭を行った場合に適用されるという理由でこれを一切支給しない本件処分をするのであれば、本件で読経料が葬祭費用に含まれなければならないとする根拠を積極的に明示することが要求される。しかし処分庁は、上記見解を引用するほかは、「葬祭費用とは、葬祭に係る全ての費用と考えるのが自然」であるという独自の見解を述べるにとどまり、その判断の合理性を支える根拠を明らかにしていない。
(3)次に、処分庁が本件処分をした理由は、読経料は親族がこれを支払い、審査請求人はこれについて葬祭扶助を申請していないにせよ、「高額な葬祭費用に対して葬祭扶助費の支給限度額を適用する取扱いは認められない」から、葬祭扶助費を一切支給できないという点にある。処分庁はその根拠として保護課長通知のほか、法4条の補足性の要件を挙げるので、この点について言及する。
 そもそも法4条は、その文理上、生活に困窮する者がその利用し得る資産等を活用することを要件として保護が行われることを定めたものであり、同条から、保護受給者が葬祭扶助の基準額を超える費用の葬祭を行った場合はすべて法の保障の対象外であるという結論を導くことには疑義が残る。また、保護受給者は一定の範囲で預貯金を保有することが判例上認められており、また香典など葬祭に際して贈与される金銭は次官通知等により収入認定されない取り扱いであることに鑑みると、保護受給者の行った葬祭の費用が結果的に葬祭扶助の基準額を一定額超えることになり、その分を預貯金や香典その他贈与金で賄った場合に、その葬祭は最低限度の葬祭に当たらないという理由で葬祭扶助費を一切支給しないという解釈が合理性を有するとはいえない。
 なお、仮に処分庁の主張する解釈を前提とするならば、保護の実施機関は、葬祭扶助費が申請された葬祭費用の内訳や金額にかかわらず、実際に行われた葬祭の内容・方法等を逐一確認した上で、これが「最低限度の葬祭を行った場合」に該当するか否かを認定しなければならないことになる。現に本件で処分庁は、上記2(4)及び(5)の通り、審査請求人の主張から葬儀関係資料を受領したにもかかわらず、直接A社に対して聴取を行っている。しかし、上述したように葬祭の内容・方法等が多様であることに鑑みても、そかし、上述したように葬祭の内容・方法等が多様であることに鑑みても、そのような取扱いが妥当であるとはいえない。
(4)以上の観点に立って本件について判断すると、平成○年○月○日に審査請求人が処分庁に提出した葬儀関係資料等によれば、本件申請により求めた葬祭扶助費の中には読経料は含まれておらず、また、現実に審査請求人が読経料を負担しているわけでもない。現に審査請求人が支出した葬祭費用の合計額は葬祭扶助の基準額を下回っている。したがって、審査請求人の行った葬祭は、保護課長通知のいう葬祭扶助費の支給限度額を適用する取り扱いが認められない「高額な葬祭費用」には該当しないと解される。
(5)以上より、審査請求人の申請意思に反して読経料を葬祭費用に含めて葬祭扶助を申請したものとみなし、葬祭費用合計額が葬祭扶助基準額を超えて最低限度の葬祭を行っていないことを理由に、本件申請を却下した本件処分は違法であり、取り消されるべきである。したがって本件審査請求は認容されるべきである。
(以下略)
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/27862/00296458/2941_toushin49.pdf

 

 

これは、故人の親族(つまり、現在の保護世帯の世帯主である「故人の夫」の血族ではない)が読経料などを負担した、というケースで、やや特殊かもしれません。
「保護世帯外の親族が負担するから何でもいいだろ」というわけでもないでしょう。

コロナ禍で家族葬的な葬儀が増えるなど、葬祭や「おくり方」についての考え方は多様化しています。
また、宗教を司る方の人々も、貧困世帯への支援など、さまざまな考え方をもっている人々が存在すると思われます。

そういう中で、保護の原則と、残された遺族の心情、その地域の社会通念など、どうバランスを取っていくか、難しいところだろうとは思います。