自宅療養者の個人情報提供

読売新聞9月3日の朝刊3面の「スキャナー」によると、東京都の多摩府中保健所管内にある武蔵野市長が、2日、同新聞の取材に危機感を明かした、とされています。新型コロナの自宅療養者の個人情報を、都の保健所が提供してくれない、ということです。
(以下抜粋)


********************
「このままでは、自宅で症状が急変して亡くなる人が出かねない。住民を守るための情報が欲しい」
(中略)8月に入り、武蔵野市内の自宅療養者は350人を超える日もあったが、保健所から伝えられるのは人数などの概要のみ。療養者の氏名や住所、電話番号といった個人情報は、市には分からない。
 都も保健所経由で自宅療養者と連絡をとり必要であれば約1週間分の食料品を配送している。しかし、7月以降は療養者の急増に伴って配送が遅れている時期もあり、武蔵野市には「食料がない」と窮状を訴える声も寄せられた。
 「苦肉の策」として、武蔵野市は、療養者側から市に申し込んでもらう形で、安否確認や食料配布などの支援をしている。ただ、こうした「手挙げ方式」では十分にニーズを掘り起こせない恐れがある。
(中略)改正感染症法では、あえて「都道府県と市町村の連携」の必要性が明記され、8月には厚生労働省が連携を促す通知を発出。同省の担当者は、「個人情報の提供は、連携の前提と考えている」と説明する。
 にもかかわらず、読売新聞の全国調査では、多くの県が「個人情報の保護」を理由に療養者の情報を市町村に提供していないことが浮き彫りになった。
 各地の個人情報保護条例では「個人の生命や身体、財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ないとき」は、例外的に提供できるとしている場合が多い。
 しかし、たとえば東京都では「情報を提供できる例外としては自然災害を想定しており、新型コロナは別物。感染したかどうかは人権にかかわる問題でもあり、個人情報として高度な管理が必要だ」(担当者)と情報提供には消極的だ。
********************

 

以下、栃木県の例(県内市長会からの要望書があっても、本人同意が必要と考えるがマンパワーが足りない、という理由で今後も提供しない方針)や、提供している地域でも、本人の同意をとるか、事前に市町村と文書を交わすなど慎重に進めるケースが目立つ、ということが書かれています。

一方、自前で保健所を持つ杉並区や墨田区などでは、保健所からの情報を食料配布や体調確認などのサービスにつなげていることも書かれています。中核市(以上)など自前の保健所があるかどうかによって、療養者の生死が分かれるかもしれないというような状況は、やはりおかしいと思います。

 

同紙1面によると、自宅療養者の個人情報を市町村に提供していない自治体は34都府県。うち、個人情報保護条例に抵触、またはそのおそれがあることを理由の一つに挙げた都府県は、
青森、宮城、秋田、山形、福島、栃木、埼玉、東京、静岡、京都、奈良、岡山、広島、山口、徳島、香川、福岡、長崎、鹿児島です。
(自宅療養者がいないことを理由とした地域もあります。)


では、「東京都個人情報の保護に関する条例」を見てみましょう。

********************
(利用及び提供の制限)
第十条 実施機関は、保有個人情報を取り扱う事務の目的を超えた保有個人情報の当該実施機関内における利用(以下「目的外利用」という。)をしてはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
 一 本人の同意があるとき。
 二 法令等に定めがあるとき。
 三 出版、報道等により公にされているとき。
 四 個人の生命、身体又は財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ないと認められるとき。
 五 専ら学術研究又は統計の作成のために利用する場合で、本人の権利利益を不当に侵害するおそれがないと認められるとき。
 六 同一実施機関内で利用する場合で、事務に必要な限度で利用し、かつ、利用することに相当な理由があると認められるとき。

2 実施機関は、保有個人情報を取り扱う事務の目的を超えた保有個人情報の当該実施機関以外の者への提供(以下「目的外提供」という。)をしてはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
 一 本人の同意があるとき
 二 法令等に定めがあるとき。
 三 出版、報道等により公にされているとき。
 四 個人の生命、身体又は財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ないと認められるとき。
 五 専ら学術研究又は統計の作成のために提供する場合で、本人の権利利益を不当に侵害するおそれがないと認められるとき。
 六 国、独立行政法人等、他の地方公共団体地方独立行政法人若しくは他の実施機関等(以下この号において「国等の機関」という。)に提供する場合で、国等の機関が事務に必要な限度で利用し、かつ、利用することに相当な理由があると認められるとき。

3 実施機関は、目的外利用又は目的外提供をするときは、本人及び第三者の権利利益を不当に侵害することがないようにしなければならない。
********************

 

第1項は、実施機関内(たとえば保健所を含めた都の知事部局内)で目的外利用する場合です。
第2項が、都の保健所から市町村などに提供する場合です。
本人同意(第1号)、法令等(第2号)、個人の生命~緊急・やむを得ない(第4号)などは同じですね。違いがあるとすれば第6号ぐらいですが、今回の件で「差別」するほどの差異があるとは思えません。


というより、新型コロナ自宅療養というのは「個人の生命、身体又は財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ないと認められるとき」に明らかに該当しますし、そうでなくても本人の同意をとれば全く問題ありません。

それから「都の担当者」君。第4号のどこに「自然災害を想定しており、新型コロナは別物」と読めるようなことが書いてある?
河野大臣じゃないけど、日本語わかる奴を出してくれ。