村上選手「見返したい」の真意

村上茉愛選手は五輪を反対してる人に「見返したい」「思い知ったか」とは言ってない。問題の記事も修正済み

篠原修司ITジャーナリスト
7/31(土) 9:35
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinoharashuji/20210731-00250717


 東京オリンピックの体操女子個人総合に出場した村上茉愛(まい)選手が試合後のインタビューで、「五輪を反対している人を見返したい。そういう人たちに思い知ったかと思ってもらいたい」と答えたとして批判されています。

 本当にそのようなことを言ったのでしょうか?

 

発端はデイリースポーツの記事

 批判が起きる原因となったのは、デイリースポーツが7月30日6時30分に配信した以下の記事です(その後、編集されているためアーカイブにリンクしています)。

 この記事では村上茉愛選手が自身のSNSに寄せられた中傷コメントに対しての思いを、次のようにコメントしたと書かれています。

 「コロナになってアスリートが発言するのはすごく難しい。もう消去しましたけど、そういう嫌なコメントを見てしまって…。すごく残念でした」

「五輪を反対している人がいるのも知っている。そういう人を見返したいと思って、この1年頑張ってきた。そういう人たちに思い知ったかと思ってもらいたいです。すいません、最後に泣いてしまって」

 問題となっているのは後半の部分です。

 「五輪を反対している人がいるのも知っている。そういう人を見返したいと思って、この1年頑張ってきた。そういう人たちに思い知ったかと思ってもらいたいです」が、そのまま「五輪を反対している人を見返したい。思い知ったか」と受け取られてしまったのです。

 もちろんそのように読めてしまうのは仕方がないのですが、デイリースポーツの記事では削られてしまったインタビューの他の部分を読むと印象が異なります(本来ならここでインタビューの書き起こしを行うべきなのですが、このインタビューの動画をネットにアップされていないようなので(見つけられなかった)、べつの記事と参照させて頂きます)。

「誹謗中傷する人たちを見返したい」

 東スポWebの記事によると、そもそも一連のコメントは海外メディアから「SNSでの誹謗中傷」と「メンタルヘルス」についてインタビューされたことがきっかけということです。

 質問に対して村上茉愛選手は涙を見せながら誹謗中傷について

「そういうのが嫌でSNSをやっていなくて…。コロナになって、いろんな人がいろんなことに中傷する世の中になった。アスリートが発言するのがものすごく難しいなって」と声を震わせた。

 さらに、今大会の団体予選の後にも心ないコメントを目にしたという。

「消去しましたけど、すごく嫌なコメントを見てしまって、すごく残念で…。でも、それを周りに相談して、そんなの気にしなくていいからって」

(中略)

 また、反五輪の意見がアスリートに向けられる状況にも思うところがあった。

「そういう人がいるのはすごく残念だなってすごく思います。反対している人も知っているし、もちろん分かるし。だけど、(誹謗中傷は)見たくなくても見てしまう、勝手に入ってきてしまう、すごく残念だなって、悲しかったなって」

 ここまで吐き出すと冷静さを取り戻し、「そういう人を見返したいと思ってこの1年頑張ってきた。思い知ったかって」と言って、最後は村上らしく笑った。

 とコメントしたとのことです。

 東スポの記事を読むと、「そういう人を見返したい」、「思い知ったか」は“五輪を反対している人”ではなく“誹謗中傷をしてくる人”に向けて言っていることがわかります。

 念のため丁寧に説明すると、「五輪を反対している人がいるのも知っている」の「も」は“SNS村上茉愛選手を誹謗中傷してくる人”にかかっており、この誹謗中傷してくる人たちに対して「見返したい」、「思い知ったか」とコメントしているというわけです。

 実際、東スポの記事を読めば「反対している人も知っているし、もちろん分かるし」と、五輪に反対することについて村上茉愛選手は理解を示しています。彼女は五輪に反対する人を敵対視していません。

 

騒動後、デイリースポーツは記事を修正
 なお、自社の記事が原因で村上茉愛選手に批判が起きていることに気づいたのか、デイリースポーツはその後記事を修正しています。

 コロナ禍で五輪を巡る空気は一変。開催に反対する世論が強まる中、夢舞台を目指す選手に対する風当たりが強くなった。今大会でも試合後にさまざまな形でSNS上に中傷コメントが書き込まれ、波紋を呼んでいる。

 「そういう人を見返したいと思って、この1年頑張ってきた。そういう人たちに思い知ったかと思ってもらいたいです。すいません、最後に泣いてしまって」。3分間、涙とともに訴え続けた。

 修正後の記事からは「五輪を反対している人がいるのも知っている」の部分が削られ、全体を通して“誹謗中傷してくる人”についてのコメントとなっています。

 繰り返しますが、村上茉愛選手は“五輪に反対している人”に対して「思い知ったか」のコメントを向けていません。彼女はあなたたちの敵ではありません。

 誤った内容の記事に基づいて、村上茉愛選手を批判したり、さらには誹謗中傷したりすることはやめましょう。

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村上茉愛さん、種目別ゆかの銅メダル、おめでとうございます。

体操女子では1964年の東京五輪以来、個人種目では初のメダルということですが、そういうことに関係なく、高水準の争いの中、すごい演技でした。

 

他の皆さんへ。上で紹介した記事のとおりです。彼女は「五輪を反対している人」を見返したいというのではなく、誹謗中傷する人に対して「見返したい」ということです。

この件についての責任は、デイリースポーツにあると思いますが、くれぐれも村上選手を攻撃しないように。