香港の英中共同宣言2

第一付属文書

中華人民共和国政府の香港に対する基本方針、政策についての具体的説明

 

 中華人民共和国政府は、中華人民共和国政府とグレートブリテン北アイルランド連合王国政府の香港問題に関する共同声明第三項に記された中華人民共和国の香港に対する基本的な方針、政策について、次のように具体的に説明する。

 


 中華人民共和国憲法第31条は「国家は、必要ある場合、特別行政区を設けることができる。特別行政区内で実施する制度は、具体的状況に応じて全国人民代表大会がこれを法律で定める」と規定している。この提案にもとづいて、中華人民共和国は1997年7月1日から香港に対して主権行使を回復するにあたり、中華人民共和国香港特別行政区を設ける。中華人民共和国全国人民代表大会中華人民共和国憲法にもとづき中華人民共和国香港特別行政区基本法(以下「基本法」と略称)を制定、発布し、香港特別行政区においてはその成立後も社会主義の制度と政策を実施せず、香港の既存の資本主義制度と生活様式を保持し、五十年間変えないことを規定する。

 香港特別行政区中華人民共和国中央人民政府の直轄下に置かれ、高度の自治権を享有する。外交と国防が中央人民政府の管理に属するほか、香港特別行政区は行政管理権、立法権、独立した司法権と終審権を享有する。中央人民政府は香港特別行政区に、本付属文書第11節に定められた各渉外事務を自ら処理する権限を授ける。

 香港特別行政区の政府と立法機関は、現地人によって構成される。香港特別行政区行政長官は現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。香港特別行政区政府の主要公務員(「司」クラスに相当する公務員)は、香港特別行政区行政長官が指名し、中央人民政府に報告して任命を要請する。香港特別行政区立法機関は選挙を通じて選出される。行政機関は法律を遵守し、立法機関に対し責任を負わなければならない。

 香港特別行政区の政府機関と裁判所は、中国語を使用するほか、英語を使用することもできる。

 香港特別行政区中華人民共和国の国旗と国章をかかげるほか、区旗と区章を使用することもできる。

 


 香港特別行政区の成立後、香港の既存の法律(つまり普通法、衡平法、条例、付属立法、慣習法)は,「基本法」に抵触するか、もしくは香港特別行政区の立法機関が改正するものを除き保持する。

 香港特別行政区立法権は、香港特別行政区の立法機関に属する。立法機関は「基本法」の規定にもとづき、また法的手続きにしたがって法律を制定することができる。その制定した法律は記録に留めるため、中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会に報告する。立法機関の制定した法律で「基本法」と法的手続きに合致するものはすべて有効である。

 香港特別行政区で施行される法律は、「基本法」および前記の香港の既存の法律と、香港特別行政区の立法機関が制定した法律である。

 


 香港特別行政区の成立後、香港特別行政区の裁判所が終審権を享有することにより生じた変化を除き、それまで香港で実施されていた司法体制は保持する。

 香港特別行政区裁判権は、香港特別行政区の裁判所に属する。裁判所は独立して裁判をおこない、いかなる干渉も受けない。司法要員が裁判の職責を履行する行為は、法律の追及を受けない。裁判所は香港特別行政区の法律にもとづいて案件を審理し、その他の普通法適用地区の司法判例を参考にすることができる。

 香港特別行政区の裁判所の裁判官は、現地の裁判官、法曹界およびその他の分野の知名人からなる独立委員会の推薦にもとづき、行政長官が任命する。裁判官は本人の司法的才能にもとづいて選抜、任用すべきであり、またその他の普通法適用地区から招聘、任用することもできる。裁判官は職務遂行の能力がない場合、または裁判官としてふさわしくない行動をとった場合にのみ、行政長官が終審裁判所首席裁判官の任命する三名以上の現地の裁判官からなる審議法廷の提案にもとづいて免職することができる。主要な裁判官(つまり最高クラスの裁判官)の任命と免職は、さらに行政長官が香港特別行政区立法機関の同意を求めなければならない。この場合は、記録に留めるため、全国人民代表大会常務委員会に報告しなければならない。裁判官を除くその他の司法要員の任免制度はひきつづき保持される。

 香港特別行政区の終審権は、香港特別行政区終審裁判所に属する。終審裁判所は必要な場合、その他の普通法適用地区の裁判官を招聘し、裁判に参加させることができる。

 香港特別行政区の検察機関は刑事検察活動を主管し、いかなる干渉も受けない。

 香港特別行政区政府は、特別行政区政府発足以前に香港で実施されていた方法を参照して、現地および外部の弁護士の香港特別行政区における活動と業務に関する規定を定めることができる。

 中央人民政府は、香港特別行政区政府が外国との司法上の相互援助関係について妥当な措置をとるのを援助し、またはその権限を授ける。

 


 香港特別行政区特別行政区発足以前に香港でとっていた教育制度を保持する。香港特別行政区政府は教育体制と管理、教育使用言語、経費割当、試験制度、学位制度、学歴と技術資格承認などの政策を含む文化、教育、科学技術面の政策を自ら制定する。各種大学と学校は、宗教と社会団体の運営するものを含めて、いずれもその自主性を保持し、ひきつづき香港特別行政区以外から教職員を招聘し、教材を選択、使用することができる。学生は大学、学校を選択し、香港特別行政区以外の地で就学する自由を享有する。

 

十一
 中央人民政府が外交事務を管理することを原則に、香港特別行政区政府の代表は、中華人民共和国政府代表団のメンバーとして、中央人民政府のすすめる、香港特別行政区と直接関係ある外交交渉に参加することができる。香港特別行政区は「中国香港」の名称で、経済、貿易、金融、海運、通信、観光、文化、スポーツなどの分野において、独自に世界各国、各地区および関連国際機構と関係を保持し、発展させ、関連協定を締結し履行することができる。香港特別行政区政府の代表は、国家を単位として参加する。香港特別行政区と関係のある、適当な分野における国際機構と国際会議に、中華人民共和国政府代表団のメンバーまたは中央人民政府と前記関連国際機構または国際会議の認める資格で参加し、「中国香港」の名称で意見を発表することができる。香港特別行政区は国家を参加単位としない国際機構と国際会議に「中国香港」の名称で参加することができる。

 中華人民共和国の締結した国際協定は、中央人民政府が香港特別行政区の状況と必要にもとづき、香港特別行政区政府の意見を求めてから、香港特別行政区に適用するかどうかを決定する。中華人民共和国のまだ参加していない、香港で適用されている国際協定は、ひきつづき適用することができる。中央人民政府は必要に応じて、香港特別行政区政府に、その他の関係国際協定を香港特別行政区に適用させるため、適当な措置をとる権限を授けるかまたは援助する。中央人民政府は、中華人民共和国がすでに参加し、香港も現在なんらかの形で参加している国際機構に対し、香港特別行政区に適当な形でこれらの機構における地位をひきつづき保持させるために必要な措置をとる。中華人民共和国のまだ参加していない、香港が現在なんらかの形で参加している国際機構に対し、中央人民政府は必要に応じて香港特別行政区を適当な形でひきつづきこれらの機構に参加させる。

 外国が香港特別行政区に領事機構またはその他の政府または半官機構を設ける場合、中央人民政府の許可を受けなければならない。中華人民共和国と正式の外交関係を樹立した国が香港に設けた領事機構その他の政府機構は保持することができる。まだ中華人民共和国と正式の外交関係を樹立していない国の領事機構その他の政府機構は、状況に応じて保持するか半官機構に改めることができる。まだ中華人民共和国に承認されていない国は、民間機構を設けることしかできない。

 連合王国香港特別行政区総領事館を設けることができる。

 

十二
 香港特別行政区の社会治安は、香港特別行政区政府が責任をもって維持する。中央人民政府が香港特別行政区に派遣する防衛担当の部隊は、香港特別行政区の内部問題に干与せず、部隊の駐在費用は中央人民政府が負担する。

 

十三
 香港特別行政区政府は法律にもとづき香港特別行政区の住民その他の人の権利と自由を保障する。香港特別行政区政府は、香港の既存の法律に定められている、人身、言論、出版、集会、結社、労働組合の組織と参加、通信、旅行、移転、罷業、デモ、職業選択、学術研究、信仰の自由、住宅不可侵、婚姻の自由、自由意思による出産の権利を含む権利と自由を保持する。

 何人も秘密裏の法律相談、裁判所への訴訟、法廷における代理としての弁護士の選択、司法救済の獲得の権利を持ち、行政部門の行為について裁判所に訴える権利を持つ。

 宗教組織と教徒は、他の地方の宗教組織、教徒と関係を保つことができ、宗教組織運営の学校、病院、福祉機構などはいずれもひきつづき存在することができる。香港特別行政区の宗教組織と中華人民共和国の他の地区の宗教組織の関係は相互不隷属、相互不干渉、相互尊重の原則を基礎とする。

 「市民的政治的権利に関する規約」と「経済的、社会的、および文化的権利に関する規約」によって香港に適用されている規定は、ひきつづき有効である。

 

十四
 香港特別行政区に居留権を所有し、かつ香港特別行政区の法律にもとづき香港特別行政区政府の発行する、この権利を明記した永久住民証を取得できるものは次の通りである。香港特別行政区発足以前と以後に現地で出生したかまたは通常連続七年以上居住した中国公民と香港以外で出生したその中国籍の子女、香港特別行政区発足以前と以後に現地に通常連続七年以上居住するとともに香港を永住地とするその他の人と香港特別行政区発足以前と以後に現地で出生した21歳未満のその子女、および香港特別行政区発足以前に香港にのみ居留権を所有していたその他の人。

 中央人民政府は、香港特別行政区政府が法律にもとづき、特別行政区永久住民証をもつ中国公民に中華人民共和国香港特別行政区パスポートを発行するとともに、香港特別行政区のその他の合法的居留者に中華人民共和国香港特別行政区のその他の旅行証明書を発行する権限を、香港特別行政区政府に与える。前記のパスポートと証明書は各国、各地区に対して有効であり、所持者が香港特別行政区に帰る権利があることを明記する。

 香港特別行政区の住民の現地出入域にあたっては、香港特別行政区政府または中華人民共和国のその他の主管部門、あるいはその他の国家主管部門の発行する旅行証明書を使用することができる。香港特別行政区永久住民証をもつ者は、その旅行証明書にその旨の事実を明記して、本人が香港特別行政区に居留権があることを証明することができる。

 中国のその他の地区の人が香港特別行政区に入る場合は、現行の方法で管理する。

 その他の国と地域の人の入国、滞在、出国に対し、香港特別行政区政府出入国管理を実施することができる。

 有効な旅行証明書をもつ人は、法律で制止される場合を除き、香港特別行政区を自由に離れることができ、特別許可を求める必要はない。

 中央人民政府は、香港特別行政区による各国、各地区との相互ビザ免除協定の締結を援助し、またはそのための権限を特別行政区政府に与える。